1.はじめに
相続が発生したときに、先代の相続時に遺産分割協議をしていなかったため、不動産名義が先代のままになっているケースをよく目にします。この場合、後に発生した相続の相続税申告の時に、先代名義のまま未分割となっている不動産も申告対象となるでしょうか?
今回は事例をもとに、お話ししたいと思います。
【事例】
父・母・長男・長女の4人家族。
2023年1月15日:父他界。相続税申告は基礎控除(4,800万円)以下で不要でした。
2024年2月24日:母他界。相続財産が基礎控除(4,200万円)を超え、相続税申告が必要となりました。
相続財産に父名義の不動産(土地・建物)がありましたが、遺産分割協議が整わず父名義のままでした。父名義の不動産は、父・母が生前居住用として使用しており、父の他界後も母が継続して使用していました。
【母の相続税申告上の問題点】
(1)母の死亡に伴って子が相続税申告をするとき、父名義のままになっている不動産はどのように申告をすることになるでしょうか。
法定相続分(母2分の1、子4分の1ずつ)で相続していたものとして申告?
母が使用していたのだから、全て母の財産として申告?
子2人で遺産分割協議をし、協議の内容通りに申告?
(2)母が使用していた不動産の固定資産税を、母の相続開始後に子が支払った場合、相続財産から控除することができるでしょうか。できるとして、その金額はいくらになるでしょうか。
2.父名義の未分割不動産はだれのもの?
(1) 結論
父名義の不動産について、遺産分割協議が整わないまま母が他界した場合、子2人の協議でだれが不動産を相続するか決定することができます。
例えば、一旦母が相続したこととして、小規模宅地の特例(土地の評価額を減額することができる特例)を適用することも考えられます。他方で、母の相続財産としないため、母ではなく子が父から直接相続したとする遺産分割協議を行うことも考えられます。
母の相続財産の状況に応じてどのパターンが有利になるか検討が必要です。
(2) 理由
父名義の不動産について、遺産分割協議が整わない場合、父の相続人3人で不動産を共有している状態が継続します。その後、母が他界したことにより、母の遺産分割協議をする地位を子2人が相続することになります。これにより、子2人の協議によって、誰が父名義の不動産を相続するかを決定することができるようになるのです。
3.未分割不動産の債務はだれのもの?
(1)結論
母が使用していた不動産の固定資産税を母の相続開始後に子が支払った場合、相続財産から控除することができます。その金額は、母の法定相続分相当額となります。
(2)理由
未分割の不動産は、相続人全員の共有状態となります。そのため、母が固定資産税の支払義務者として負担する金額は、母の法定相続分である2分の1となります。
なお、母が不動産を使用しているため、使用料として母が固定資産税を負担するような取り決めが親子間であった場合には、母の子に対する債務として控除をすることができる可能性があります。
4.留意点
(1) 子2人で遺産分割協議書を作成する場合には、母の相続人として遺産分割を行う地位を有する者が協議をしたことを明らかにする必要があるなど注意が必要です。
(2) 上述したように、子2人で分割協議ができるとしても、どのように分割をするのが相続税申告上有利なのかという点についてはシミュレーションが必要かと思います。
(3) 今回の事例とは異なり、子が1人の場合には、母が他界した時点で子に不動産の全てが帰属したことになり、未分割の状態が解消するため、父から子へ直接不動産を相続させることはできないとされています(東京高裁平成26年9月30日判決参照)。このように、いわゆる「ひとり遺産分割協議」ができない結果、子が1人の場合には、父名義の不動産は、父から母・子へ、母から子へと法定相続分どおりに相続することになる点に注意が必要です。具体的には、母の死亡時の相続税申告にあたっては、父名義の不動産の2分の1を母の相続財産として申告書に記載することになります。
なお、相続登記にあたっても、父名義の不動産を母と子が2分の1ずつ相続し、母の他界により、母の持分(2分の1)を子が相続した旨の登記をすることになると考えられます。
いずれにしましても、登記や相続税申告の際には、個別の事情に応じた具体的な検討が必要になります。司法書士や相続専門の税理士に相談することをおすすめいたします。